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松澤信之、芥川賞作家への道
風俗批評宣言

みなさん、こんにちは。松澤信之担当編集の玉手秀明です。これまで散々と下らないことをしてきた私ですが、思うところ多々あり生涯に残る仕事に着手する決意を固めました。それは風俗ライターとは名ばかりで、現在は場末の雀荘のボーイにまで成り下がった松澤信之氏を芥川賞作家に育て上げようという壮大なプロジェクトです。

かつて長嶋茂雄監督は、ドラフトで十年に一度の大器と言われた松井秀喜を引き当てた際、四番千日構想という育成計画を発表し、彼を見事にジャイアンツの四番打者へと成長させたのでした。そこで私もいまここに「松澤芥川賞千日構想」を高らかに宣言し、年収三百万円以下の松澤信之氏を千日後には印税でビルの一つや二つ建てられるくらいの億万長者に成長させて、私自身もそのおこぼれに預りたいと思っている次第なのであります。

ただ、こんなことを本人に言うとまず間違いなくプレッシャーに押し潰されてしまうのは火の目を見るより明らかなので、最初はこの「風俗批評宣言」に書く文章を勝手に手頃な文学賞に送りつけるという作戦を取ることにしました。ちなみに現在、松澤氏はパソコンを所有していないので、この計画が彼に露見してしまう心配もありません。


これなら楽勝です。

記念すべき最初のチャレンジは「第2回Yahoo! JAPAN文学賞」。文字数は6000〜8000字。四百字詰原稿用紙に換算してたったの二十枚程度。仮にも老舗風俗雑誌で一年間署名連載を持ち、現在も風俗体験マンガの原作などを手がける松澤氏ならこれくらい楽勝でゲットしてもらわないと困ります。応募作品のテーマは「メール」。根っからのアナログ人間である彼には少々難しいお題かもしれませんが、そこは熟練編集者である私の腕の見せ所、彼の才能を存分に引き出すことができれば並み居る素人連中など到底彼の敵にはならないはずです。

発注。

松澤氏に原稿を発注します。今回はいままでのエッセイ調とは違った小説風の文章を書いて欲しいと伝えます。テーマの「メール」も忘れずに。それと文学賞の雰囲気に合わせて「爽やか」で「大衆受け」しそうなもの、特に「二十代後半の女性」をターゲットにした文章を書くように注文を出しておきます。ただ、あまりにこちらの要望が多すぎると松澤氏の才能、およびやる気を殺いでしまう恐れがあるので、あくまで「自分らしく」書くように念を押すことも忘れません。ちなみに現時点で応募締切りの四日前。速筆の彼ならこれくらい余裕のよっちゃんでしょう。

手書き原稿届く。

二日後、松澤氏からFAXで手書きの原稿が送られてきました。さすが閑人だけはあります。素早い仕事ぶりです。

悪い予感が……。

題名『性病はそよ風にのって』。非常に悪い予感がしますがここは松澤氏の才能を信じて次の行程へと移ります。

原稿のデータ化。

松澤氏の汚い手書き原稿をWordをつかってデータ化します。作業を進めるうちに彼がこちらの要望にまったく応えてくれていないことが判明してきて……。

応募。

データ化終了。規定の文字数を大幅にオーバーしているという想定外のトラブルが発生しましたが、とにかく応募の手続きをはじめます。送ってしまえばこっちのものです。

応募完了。

応募してしまいました。編集長曰く「下読みの段階で間違いなく消える」とのこと。私もそう思います。しかし松澤氏と私のチャレンジはまだはじまったばかりです。千日後の印税長者を目指して、今後も二人三脚で頑張って行きたいと思います。


※松澤氏の処女小説『性病はそよ風にのって』はYahoo! JAPAN文学賞落選の結果が届き次第、当コーナーか年末に発行予定の冊子版タイポに全文掲載予定です。みなさん、お楽しみに。

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