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オシャレ雑誌の功罪
小林辰巳

困る。非常に困る。

妻も子供もおらず、そのほとんどが金にならないような仕事ばかりしている私の、唯一と言ってもいいほどの趣味である落語(もしくは盆栽の水やり)が、こんなふうに紹介されては、本当に困る。

BRUTUS No.617(マガジンハウス)

天下のメジャー誌が、音楽(主にジャズ)を切り口に、人気ミュージシャンまでもを担ぎだし、とっつきにくいとされる古典芸能の世界へと、落語初心者を手取り足取り、優しくスムース・イン……というコンセプト。

昼から寄席に入り浸り、つまらん落語をマクラに昼寝。そんな、数少ない私のヒーリングスポットが、付け焼き刃のマニュアル世代に荒らされて、「ねえ知ってる? 今、落語がマックスでヤバイらしいよ」という野郎どものささやきに、行き遅れたオリーブ少女崩れが手籠めにされるなんて……ううう……もう、勘弁ならん!


というわけで、普段めったに着ないジャケットを羽織り、いつもより丁寧に髪型をセット、デオドラントスプレーを脇毛にシュ、ついでに靴にもチュ、で新宿の寄席へと繰り出す。

っんとうに困らあな、ええ? ったく。「一見するとミスマッチ」を美徳と心得るオシャレ貴婦人らに「玉の輔ちゃんカワイイ☆」なんてんで、俺っちのショバを荒らされたんじゃあさ。

ここはひとつ彼女らに、落語の何たるかを説くためにも「お嬢さん、どうですか? 帰りにこんな形で一杯……」とぐい呑みの仕草の練習、財布には多めの現金と謎のゴム。

んもう、けしからん! 『BRUTUS』読んでここに来た女どもに、全員手を挙げさせてやる! そして端から抱いてやる! ぷりぷり! と喜び勇んで木戸口をくぐると、そこはいつも通りの加齢臭。

ほ……、寄席は何も変わってませんでした。

困るっ!

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